• 若州一滴文庫の再開に奔走した西村さんと、水上さんから届いたファクス=4日、おおい町内
  • 開館40年を迎えた若州一滴文庫=6日、おおい町岡田
若州一滴文庫の再開に奔走した西村さんと、水上さんから届いたファクス=4日、おおい町内

 本を読めない子どもたちのために―。福井県おおい町出身の直木賞作家、水上勉さん(1919~2004年)が生まれ故郷に残した若州一滴文庫が3月8日、開館40年を迎えた。極貧の幼少期を過ごした古里に私財を投げ打ち建てた蔵書2万冊超の図書室や劇場…。水上さんの遺志を引き継ぐ住民らの「子どもの未来への手がかりを見つけてほしい」という思いが約3年間の閉館を乗り越え、現在も紡がれている。

子どもたちに本を

 61年「雁の寺」で直木賞を受賞するなど作家として地位を確立すると、85年、10歳までを過ごした同町に一滴文庫を設立した。

 ただ、利用者の減少などで経営難に陥り2000年、管理運営をしていた水上さんは文庫を閉じた。水上さんと親交のあった西村さんは「水上さんの『ポリシー』に従い、まちの子どものために、未来のために活用しなければならない」と決意、有志と文庫の再開に乗り出した。

膝叩き「それです」

 協議を重ねた末にNPO法人で運営する方針を固め、西村さんは当時の時岡忍・旧大飯町長らと01年、長野県北御牧村(現東御市)にある水上さんの自宅を訪ねた。文庫再開への思いや運営方法を説明すると、水上さんは膝を叩き「それです」。若い人たちによる自主的な運営に前向きな反応を示したという。

 計3回の話し合いの場が設けられ01年10月6日、西村さん宅に水上さんから11ページものファクスが届いた。若い人たちの運営参加がなく「片手落ち」だったとこれまでを振り返る言葉と「味方をしてください」と記され、運営委託が快諾されていた。

 町は水上さんから建物や所蔵資料の寄贈を受け、03年5月、NPO法人「一滴の里」による再開にこぎつけた。西村さんは3年ほど、事務局長として運営に携わった。運営から身を引いた後も文庫を愛する町民らが引き継いでいる。

「何かを拾って」

 文庫で11年から学芸員を務める下森さんは文庫について「特異性」があると表現する。

 「水上さんがつくりあげてきた思想、思いを住民がしっかりと受け継いでいる。(作家ゆかりの記念館など)ほかの施設ではあまり見られない」と言い切る。そして「来館する人に思いを真摯(しんし)に認識してもらい、そして未来に受け継がれていくようサポートしたい」と話す。

 図書館の入り口には「君にぼくの蔵書を解放する。勝手に読んで何かを拾ってくれ」との水上さんのメッセージが残る。文庫開館40年、再開から22年。西村さんは「子どもが気軽に立ち寄れる施設であり続けてほしいし、今後イベントを開きたい。そしてふらっと本を手にし、人生を『拾って』くれたら」と願う。

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