生活に根付く若狭の名水~瓜割の滝~
福井県南部・若狭では、今もなお湧水を汲むことが日常の一部として受け継がれています。その中心にあるのが、日本の名水百選にも選ばれている瓜割の滝です。水の清らかさ、安定した水量、そして長年にわたる利用の歴史が評価され、日本有数の名水として全国的に知られています。
1300年以上前から、人々はここを観光目的ではなく、飲み水や料理、お茶のための水を汲む場所として訪れてきました。その習慣は今も続いており、水の美味しさは地元でも広く知られ、周辺の飲食店や宿泊施設でも、この水が提供されています。
本記事では、実際にこの水を汲む体験を中心に紹介し、千年以上続く暮らしの営みに参加する方法をご案内します。後半(Part II)では、周辺エリアや瓜割の滝そのものも巡ります。
瓜割の滝は、三方五湖から国道27号線を利用して車で約30分、JR上中駅からはバスで約14分と、アクセスも良好です。この滝を支える湧水は、天徳寺周辺の森林地帯から湧き出ています。
訪問者はまず、同じ地下水脈から湧き出る水を汲める採水場に到着します。地元の人々は10〜20リットルの容器を複数持参することが多く、電車で訪れる人は持ち運びしやすい5リットル程度を汲むのが一般的です。週末であっても、静かに順番を待ちながら水を汲む光景が見られます。ここでの水汲みは演出された体験ではなく、今も続く日常の営みなのです。
Part I:名水を汲む体験ガイド
水を汲む前に、まずは採水場のすぐ裏にある売店**「名水の郷」**に立ち寄りましょう。店頭では、**採水用ステッカー(1枚300円)**を購入できます。この制度は、湧水や周辺施設を守るための取り組みで、容器1つにつき1枚のステッカーが必要です。一度貼れば、その容器で何度でも水を汲むことができ、水の質を考えると非常に良心的な仕組みです。店内では採水用の容器のほか、地元の特産品やお土産も販売されています。なお、店内での撮影は禁止されていますのでご注意ください。
小容量のペットボトルの場合、ステッカーは必須ではありませんが、水を守るため、購入への協力が呼びかけられています。ステッカーを貼ったら採水場へ進み、ホース付きの蛇口から水を汲みます。混雑する時間帯もあるため、譲り合って利用しましょう。駐車場は広いですが、20リットルなど重い容器を使う場合は、できるだけ採水場に近い場所に駐車するのがおすすめです。
瓜割の滝の水が持つ格別な清らかさは、地質・時間・風景が静かに調和することで生まれたものです。雨水は地表を急いで流れるのではなく、太古の石灰岩層の奥深くへと染み込み、長い年月をかけてゆっくりと自然にろ過されます。そうして再び地上に湧き出した水が、日本有数の名水として知られる瓜割の滝の清水なのです。
家に持ち帰って味わう
水を汲む行為そのものも楽しい体験ですが、持ち帰って実際に使ってみることこそが、この体験の大きな魅力です。地元では、この湧水を飲み水としてはもちろん、料理やお茶など、日々の暮らしの中で多くの人が利用しています。
なかでもおすすめしたいのが、コーヒーで味わう方法です。近隣の敦賀で焙煎されている野坂珈琲のマンデリンを瓜割の滝の水で淹れると、雑味のない澄んだ味わいとやわらいだ酸味、そして穏やかな香りが引き立ちます。
Part II:周辺エリアを歩く
水を汲んだあとは、ぜひ周辺の散策も楽しんでください。採水場から北へ進むと、森はさらに深まり、寺や祠の存在が目立つようになります。ここに信仰施設が集中しているのは偶然ではなく、水と山、目に見えない自然の力が、長い時間をかけて人々の暮らしと信仰を形づくってきたからです。
湧水のそばには、今も静かに回り続ける木製の水車があります。かつて生活に欠かせない存在だった水車は、人と水との関係を今に伝えています。
天徳寺 は、水の流れとともに聖地を築いてきた日本の長い信仰の歴史を今に伝えています。仏教や神道において、湧水は浄化や静かな祈りの場とされてきました。この地に寺が建てられたことは、水を生活の源としてだけでなく、敬い守るべき存在として捉えてきた人々の姿勢を物語っています。その考え方は、今も若狭の精神文化の中に息づいています。
参道をさらに進むと、水を汲みに訪れる人々を長年見守ってきた地蔵尊が佇んでいます。地蔵は古くから、浄化や守護と結びつく湧水や滝のそばに祀られることが多く、水を頼りに生きる人々や旅人、子どもたちを守る存在として信仰されてきました。
その先の空き地には、木漏れ日が差し込む小さな東屋があります。日本の聖地では、このような場所が心と体を整える緩衝空間として設けられてきました。
瓜割の滝へ
空き地を抜けると、やがて瓜割の滝が姿を現します。水は豪快に落ちるのではなく、岩肌から静かに流れ続け、やわらかく一定の音を立てています。ひんやりとした空気の中に、湿った石や苔、そして杉のほのかな香りが漂います。
ここを流れる水は、入口の採水場と同じ地下水脈のものですが、安全面や地域の慣習を尊重し、滝から直接飲むことは控えてください。また、この場所は神聖なエリアでもあるため、柵を越えて滝の中へ立ち入ることはご遠慮ください。
しばらく立ち止まり、周囲に広がる静けさを味わってみてください。自然と心が落ち着く、知る人ぞ知る静かな場所であり、汲んできた水を自宅で味わう前のひとときを過ごすのに、まさに理想的な場所です。
「水を汲む」体験で感じる文化と生活
瓜割の滝とその湧水は、ほかの滝のような華やかな景観ゆえではなく、命を支える本質的なもの――清らかな水、涼やかな木陰、静けさ、そして変わらぬ時間の流れを与えてくれる存在として、千年以上にわたり大切にされてきました。
地元の人々にとっては日常の一部であり、全国から訪れる人々にとっては、今も息づく文化に触れられる貴重な機会です。そして海外からの旅行者にとっては、水と信仰、そして暮らしが今なお深く結びついている日本の姿を、自然体のまま体感できる場所でもあります。
ぜひご自身の手で水を汲んでみてください。その澄んだやわらかな味わいを楽しむだけでなく、水を汲むという行為そのものが持つ、静かな豊かさに気づいていただけるはずです。
○瓜割の滝
福井県若狭町天徳寺37-1-3
https://www.wakasa-mikatagoko.jp/search/entry/tourism-009.html
- 福井県地域おこし協力隊
- 敦賀・若狭エリア魅力発信ライター ブライアン・キース・イーストレイク





























