山と海に抱かれるように佇む小浜市は、自然と深く寄り添いながら文化とものづくりが育まれてきた場所です。そうした風土の中で受け継がれてきた伝統のひとつが若狭和紙。地域の自然環境と、そこに息づく職人の精神を静かに映し出す手漉きの紙です。

 

 ここでは、紙漉きは大規模に発展した産業としてではなく、人々の暮らしの中に静かに根づいた営みとして育まれてきました。若狭和紙は、書くための紙として、包むための素材として、日々の生活のさまざまな場面で用いられてきました。そのしなやかな強さと落ち着いた質感には、この土地の穏やかな時間の流れが映し出されています。

若狭和紙を手がける職人、芝三津男氏

 
 現在、この伝統は芝三津男氏のような職人によって受け継がれています。若狭和紙を手がける唯一の職人として、その技を守り続けると同時に、新たな表現や可能性を静かに探りながら、未来へとつなげています。そのひとつのかたちが、和紙の箱づくり体験です。日本各地の技や感性がひとつに重なり合う、上品でどこか温もりを感じさせる存在です。

 

 その紙そのものにも、こうした重なりが映し出されています。土台となる和紙は若狭で漉かれ、染めは京都で施されます。京都は古くから染織文化が息づく地であり、洗練された技術が今も受け継がれています。さらに、文様は全国各地の作家たちによって生み出され、それぞれの視点や美意識がそっと重なり合っています。そうして生まれた一枚の和紙には、土地と文化、そして人の手の記憶が静かに織り込まれています。

 

 

 この体験は、小浜市の歴史ある浅間地区にある「OFF ROW」で行われます。かつての銭湯「大師湯」をリノベーションした、コワーキング兼クリエイティブスペースです。

このエリアは、江戸時代の城下町を起源とし、京都へと続く重要な街道であった丹後街道沿いに町並みが形づくられてきました。今もなお、その歴史の面影が静かに息づき、当時の町の佇まいを感じることができます。

 

和紙を選ぶひととき

 

体験が始まると、目の前には美しい和紙が静かに広げられます。一枚一枚がそれぞれ異なり、やわらかく落ち着いた色合いのものもあれば、繊細で華やかな模様をまとったものもあります。花柄や流れるような線、季節を感じさせるモチーフや抽象的な質感が、穏やかに並び、どこか自分自身に問いかけるような選択の時間が生まれます。中には、さりげなく型押しが施され、表面の奥にやさしい奥行きを感じさせるものもあります。

 

ここでは、急ぐ必要はありません。和紙とデザインを選ぶ時間こそが、この体験の中でも特に心に残るひとときです。誰かへの贈り物として、相手を思い浮かべながら色や柄を選ぶのもよいでしょう。あるいは、自分自身の感性に寄り添い、日々の小さなものを収めるための一箱を形にするのもまた、静かな喜びのひとつです。

箱の蓋に選んだ文様


 蓋に使用する和紙には、控えめで上品な美しさを感じさせるデザインと色合いを選びました。ほのかにきらめくドット模様は、装飾的でありながら決して主張しすぎず、日本人が好む「控えめな美意識」と重なるように感じられました。そうした考えから、黒ではなくマットな紫を選び、大切なものを包み込むような特別感を表現しています。この箱には、幼い頃の思い出の写真を収めたいと思っています。

 

箱の底に選んだ文様
 
 

選んだ柄入りの和紙は箱の表面(ふた)に使われ、単色の和紙は土台となる部分に使われます。

箱のかたちを整える

箱は3種類からお選びいただけます。大小2種類の箱に加え、お箸専用の箱もご用意しています。小さいサイズはアクセサリーや名刺、日常で持ち歩く小物の収納に適しており、大きいサイズは手紙や写真、思い出の品を収めるのにふさわしいサイズです。お箸用の箱は1膳のお箸が収まる大きさで、日常使いの品を上品に収めることができます。

体験中に制作することもできる、上品なお箸箱の一例


 和紙の箱づくり体験に加え、本コースには若狭塗り箸の研ぎ出し体験も含まれています。この工程では、漆の層の中に埋め込まれた模様を丁寧に磨き出しながら、ひとつひとつ異なる表情を浮かび上がらせていきます。本記事では主に和紙の体験を中心にご紹介していますが、お箸の体験についての詳細は記事末尾の公式サイトよりご覧いただけます。

模様を磨き出す、若狭塗り箸の研ぎ出し体験

 

 
 

  サイズを選ぶ前に、この箱をどのように使いたいか、少しだけ思いを巡らせてみてください。

 

  次に、職人がふたと土台の型を丁寧になぞり、その輪郭が紙の上に静かに浮かび上がります。あとは、その線に沿って切り進めていきます。工程自体はシンプルですが、各パーツがきれいに重なるよう、スタッフがそばでさりげなく見守ってくれます。

 

重要な行程ですがガイドラインがあるので和紙を切る作業は難しくないです。

和紙を貼る工程

 

次の工程では、和紙を土台に貼り合わせていきます。

 

  のりは控えめに使うのではなく、やや多めに取り、全体に均一に広げるのがポイントです。紙の端だけでなく、少し外側まで丁寧に伸ばしていきます。上半分は一方向に、下半分は逆方向にのばすことで、仕上がりがより美しく整います。

 

  和紙を土台にのせたら、空気が入らないように、やさしく位置を整えていきます。シワを防ぎながらなめらかな表面に仕上げるためには、軽く引きながらも安定した手の動きが求められます。

土台が完成したら、同じ工程をふたにも繰り返していきます。

和紙の角を箱の内側の縁にきれいに収めるために、つまようじを使ってやさしく押し込み、形を整えていきます。

 

完成したかたち

 
 

和紙の箱づくりを終えての個人的な感想

箱が使い捨てのものとして扱われがちな現代において、この体験はとても静かで深い意味を持つものに感じられました。文様の美しさや和紙そのものの質の高さはもちろんですが、私の中に最も残ったのは、それ以上に目に見えない部分でした。

 

日々何気なく使っているものの繊細な質感――紙の手触りや厚み、そして自分の手でかたちにしていく中で生まれる静かな満足感に、改めて意識を向けるきっかけとなりました。時間をかけて丁寧に何かをつくるという行為には、また別の価値があるのだと感じます。そこから生まれるのは、単なる「もの」ではなく、意図や記憶を宿した、自分だけの存在でした。

つくることを通して世界と関わるという感覚――消費するのではなく、自ら手を動かすという在り方は、これからの暮らしの中でも大切にしていきたいものだと、静かに思わされる体験でした。

 

この箱には、イギリスの実家で幼い頃に撮った写真を収めることにしました。左が私、右が兄で、庭でじゃがいもを育てているときの一枚です。

本体験を振り返って

その模様や質感の中には、小浜の外に広がる若狭や京都、そして日本各地の職人たちの手の気配が、静かに重なり合っています。それでいて、自らの選択を通して生まれたその一箱は、どこまでも個人的な存在でもあります。

ものづくりが日々の暮らしとともにあったこの土地で、この体験は、そのリズムにそっと触れるひとときを与えてくれます。そして手元に残るのは、その余韻をこれからも静かに宿し続ける、小さなかたちです。

 

職人について

 

その中心にいるのが、芝三津男氏です。若狭和紙を静かに今へとつなぎ続ける存在であり、唯一の職人として、過去と未来がそっと交わる場所に立っています。伝統をただ守りとどめるのではなく、人の手を通して、体験を通して、そして日常に寄り添う小さなかたちを通して、その物語をゆるやかに未来へと運んでいます。

 

体験情報

・料金:5,500円〜
 ・所要時間:約90分〜2時間
 ・定員:4名程度(2名様から対応いたします)
 ・開催場所:OFF ROW(旧・大師湯)
 ・予約:要予約(事前予約をおすすめします)
 ・対象年齢:どなたでも参加可能

※詳細は事前にご確認ください。
 団体(グループ)でのお申込み、出張体験のご相談にも対応いたします
 予約リンク: https://line.me/R/ti/p/@175xabrq?oat_content=url&ts=03162108
 HP: https://www.takatoriproject.com/
 Instagram:  https://www.instagram.com/takatori_project/

和紙販売サイトリンク

 

 

 

有限会社 高鳥紙業
 〒917-0072
 福井県小浜市千種2-4-3
 Tel. 0770-53-0111                                                 
 URL: https://www.takatoriproject.com/

 

福井県地域おこし協力隊
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