
冬の味覚・カキの養殖が盛んな福井県小浜湾。一般的な方法と異なり、稚貝を専用かごで育てる「シングルシード方式」の導入から7年目を迎え、今春にはこの方式で育てられた2種類のブランドマガキが誕生した。市場への供給量が少ない春や秋に出荷できるため、冬期にピークを迎える「若狭かき」などと合わせ、小浜のカキを通年で市場に出荷する体制確立への一歩と期待されている。
■新たな方式
「シングルシード」による養殖は県が地元漁業者などと連携し2019年にスタートした。現在、主に5軒で養殖している。小浜のカキ養殖は貝殻などに付着させた稚貝をロープで海中につるす「垂下方式」が主流。一方、シングルシード方式は潮の干満を生かして貝を海上に露出することで付着物が少なくなり、養殖作業の効率化を図ろうと着目した。
22年に市や市漁協、県立大などが連携しシングルシードによるブランドマガキの開発に着手。卵を産まない「三倍体」と呼ばれる個体を使用し、高い海水温にも耐える「若狭うららかき」と、小浜湾で採取した天然種苗を養殖し“純小浜産”にこだわった「若狭こはるかき」の2種を今春、お披露目した。加熱用で冬期にシーズンを迎える「若狭かき」と異なり、2種はともに生食が可能で、差別化を図った。
■若狭かきを補完
ブランドカキ2種を市漁協の担当者は「若狭かきが出荷できない時期を補完する役割」と位置づける。春先は「こはる」、秋は「うらら」、夏場はイワガキを出荷し、1年を通じてカキを供給する体制をつくりたいという。異常気象などで若狭かきが大量死した場合でも代替品としての出荷も期待できる。
二つのカキは24年に試験販売を開始。「こはる」は24年のみで500個、「うらら」は2年間で5千個を出荷した。安定した出荷には、もう少し時間が必要とみられ、「若狭かき」を含め3種類のマガキを効率よく養殖する生産サイクルの構築なども課題だ。作業の効率化についても小浜湾では干満差が小さいため、かご掃除などの手間が増え、機械などによる効率化も必要になりそうだ。
■稼げる環境を
市はかごなどの資材購入支援の費用を募るクラウドファンディングを実施。シングルシードによる生産拡大やPRに乗り出した。
1930年に養殖が始まった小浜のカキだが、担い手不足や高齢化などで92年に39軒あった事業者は2022年には15軒に半減した。市漁協の担当者は「担い手を増やし、生産量を上げていくためにも、一つのビジネスモデルをつくりたい」と話す。小浜に二つの養殖方式の両立が実現すればシーズンを問わずにカキの出荷が可能となり“稼げる環境”による新規参入にも期待できるのではないか。
◇シングルシード方式 小型のかごに稚貝を入れて養殖する方式で、欧州や豪州で盛んに取り入れられている。市内の事業者によると、最初は稚貝を500個ほどかごに入れ、成長と共に数を減らしていく。波に揺れて丸みを帯びた殻となるため、栄養の偏りもなく身がぎっしりと詰まったカキに成長する。
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