
オープンから約2年半で80万人以上が来店した公設民営書店「ちえなみき」=3月、敦賀市鉄輪町1丁目
英訳絵本を題材にした勉強会。2階の「セミナー&スタディ」スペースでは毎週末、イベントが開かれている=3月29日
福井県敦賀駅近くの公設民営書店「ちえなみき」の来店者が80万人を突破した。2022年9月のオープン以来、想定を上回るペースで推移し、昨年春の北陸新幹線開業を追い風に市外や県外からの来訪も伸長。毎週末に開かれている読書会や講演会など各種イベントは500回超を数え、市民らが学び、交流する「知の拠点」として機能している。
■多世代に「刺さる」
「本のディスプレーにセンスを感じる。カフェもあっておしゃれ」。3月末、富山市の会社員は、新幹線と特急を乗り継いで大阪市に向かう途中、乗り換えの合間にちえなみきに立ち寄った。「きょうは時間がなくて見尽くせないので、また来たい」と笑顔を見せた。
市は当初、年間10万人の来場を見込んでいたが、今年2月末までの2年半で累計84万4660人が来店。新幹線延伸後の1年間で見ても前年同期比46%増の約40万6千人が訪れた。店舗の統括責任者は「新幹線を利用して嶺北から来る方のほか、滋賀や京都からの来店も目立つ。『都市部にもあまりない施設で日常的に来たい』と言っていただける」と話す。
「書棚空間プロデュース」などを手がける編集工学研究所と丸善雄松堂が指定管理者として運営する。新刊書、古書を問わず3万冊以上を選び、40を超える「文脈」に分類。樹木を模した書棚の形状も好奇心をかき立てる。店内には知育玩具と絵本を備えたキッズスペースや日本茶専門カフェもある。「本好き、若者、シニア、家族連れと、多様なターゲット層に刺さる工夫」が、多くの人を引きつける要因だ。
ちえなみきの成功には注目度が高く、自治体や企業からの視察も相次ぐ。市が3月に開いたシンポジウムには県内外から約100人が参加。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの山本雄一朗さんは「ちえなみき開業で駅周辺の人流が活発化し、さまざまな機関が連携するハブとしても機能している」と評価した。
■来訪者と地域つなぐ
店舗2階の「セミナー&スタディ」スペースでは、書店員らが土日曜を中心にさまざまなイベントを企画している。無料で貸し出しているため市民による利用も多く、市が想定していた「知育・啓発施設」として定着している。
例えば、民俗学者宮本常一の名著「忘れられた日本人」を毎月1章ずつ読み進める読書会は毎回、議論が白熱。店内で夜を明かすイベント「ちえなみきに泊まろう」は昨年9月の開催時、定員20人に全国から160人の応募があった。毎回、イベントに関連した書籍を並べ、本との「出合い」を創出している。
3月末には福井県出身の高島英幸東京外大名誉教授を講師に招き、越前市出身の絵本作家かこさとしさんの代表作「だるまちゃんとかみなりちゃん」の英訳版を題材に読み比べ講座を企画した。多くのイベントに参加している敦賀FMラジオのパーソナリティー星出さんは「企画の切り口が独特で、さまざまな『世界』に連れていってもらえる。特別感を味わえ、居心地の良い『公共のリビング』」と表現した。
今後の課題の一つは、ちえなみきの集客を地域に広げ、街全体のにぎわいにどうつなげていくかだ。本年度は、地元住民のお気に入りの一冊やおすすめの読書スポット、付近の飲食店を紹介する冊子の制作を企画中で、店舗責任者は「観光ガイドとしても読書案内としても使える内容にして、敦賀のまちなかの楽しみ方を提案したい」と構想を描いている。
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