• 蘭学サミットのチラシ
  • 小田野直武が記した『解体新書』の図譜
蘭学サミットのチラシ

 小浜藩医・杉田玄白らが出版した「解体新書」の刊行250周年を記念し、福井県、小浜市は8月10日、「蘭学サミット~解体新書と日本の夜明け」を同市文化会館で開く。基調講演とパネルディスカッションで蘭学から未来を開く知恵を考える。無料。参加者を募っている。

 蘭学は江戸中期、オランダ語の書物を通し西洋文化や学術を研究した学問。特に「解体新書」の刊行をきっかけに蘭学は発展した。

 サミットでは▽解体新書が歴史上、どのような意味を持つのか▽杉田玄白の人物像やその魅力▽解体新書や杉田玄白が現代の私たちに何を語りかけてくれているのか―を考える。

 2部構成。第1部の基調講演には、東京学芸大の大石学名誉教授が「近代日本の夜明けと蘭学」、脳科学者の茂木健一郎さんが「脳科学者が見た解体新書」で話す。

 第2部は「いま再び『蘭学』を~未来を拓(ひら)く知恵を考える~」をテーマにしたパネルディスカッション。各界専門家や歴史好きな著名人をゲストに開く。基調講演の2人と、作家で医師の海堂尊さん(県立大客員教授)、村井美樹さん(俳優・タレント)、ビビる大木さん(お笑いタレント)の計5人が登壇する。

 午後1時半から同4時半まで。参加希望者は専用フォームから申し込む。問い合わせは福井新聞社クロスメディアビジネス局「蘭学サミット運営事務局」=電話0776(50)2931。

寄稿「蘭学導入の意義」 芸術・文化にも影響

 小浜藩医の杉田玄白や中川淳庵らが、1774年に『解体新書』を出版して近代的な西洋医学の道を切り開いたことはよく知られる。玄白は晩年に『蘭学事始』の中で、「艪(ろ)や舵(かじ)のない船で大海に乗り出したかのようで、拠(よ)り所(どころ)もなく、ただあきれるばかりであった」と、オランダの医学解剖書『ターヘル・アナトミア』を翻訳した苦労を回想するが、西洋の新しい学問について「知りたい」という思いこそが、新しい道を切り開くことにつながったのであろう。

 さて、秋田藩士の小田野直武が『ターヘル・アナトミア』に描かれた銅版画を模写した解剖図は、『解体新書』の内容を知るためには欠かせない存在である。立体的に描かれている解剖図を短い間に数多く模写するのは簡単なことでなかった。ちなみに直武を玄白に紹介したのが友人である平賀源内である。当時、西洋画の技法を学んだ数少ない一人であった源内が、直武の才能を認め、西洋画の技法の手ほどきをしたという。その点においても源内の存在は、『解体新書』にとって大きな存在であろう。

 『解体新書』の出版以後、蘭学者によって医学や化学・地理などさまざまな学問分野の書籍が翻訳されるが、その挿図を描くことが広く求められ、西洋画の技法が普及するきっかけとなった。『解体新書』の出版による蘭学の広がりは、医学の進歩だけでなく、芸術・文化の面でも大きな影響を与えたのである。(小浜市文化観光課学芸員)

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