福井県内外から俳句愛好家も集った、かやぶき屋根の食事処「民芸茶屋 孫兵衛」(敦賀市新道)が11月末で閉店する。店主は、国の重要文化財に指定されている松尾芭蕉「おくのほそ道」の原本の継承と、滋賀県境との“峠の茶屋”の経営の二刀流を続けてきたが、体力的な理由もあり、50年の節目に合わせて決断した。閉店を惜しむ人たちが名物のとろろそばをすすりに訪れている。
孫兵衛は西村久雄さんが妻の信美さんらとともに切り盛りしている。久雄さんは、国道8号が塩津街道として敦賀港の荷が京都、大阪へと運ばれた時代から、近江商人の中継問屋として栄えた西村家の16代目。店は15代目の弘明さんが1964年に支配人を引きうけた旅行会社が造ったドライブインがルーツ。73年に滋賀県から築190年の古民家を移築して独立、屋号を店名にした。
名物とろろそばは、平安末期の説話集「今昔物語」に記され、芥川龍之介が説話を題材にした短編小説「芋粥(いもがゆ)」のいもが新道付近の山芋だったとされることから、ドライブイン時代からメニューに並べてきた。久雄さんは独立当初から、大阪の調理師学校に通いながら、週末に帰福し腕を振るった。80年に北陸自動車道敦賀―米原(滋賀県)間が開通するまでは右肩上がりで繁盛していったという。
西村家は松尾芭蕉の「おくのほそ道」の原本とされる、国の重要文化財「素龍本(そりゅうぼん)」などを所有していることから、北陸道開通後も県内外から俳句愛好者が訪れた。久雄さんは所有者として説明役も引き継ぎ、「中秋の名月」の時期にはバスツアーなど団体客も受け入れてきた。
近年は他業種同様に従業員確保に苦慮することも。久雄さんは体力的な衰えを感じるようになってきたことから「余力のあるうちに」と閉店を決断。店頭に張り紙を出すと閉店情報はSNSや口コミで広がった。惜しむ声も少なくないが「自分としては精いっぱいやってきた。やり切った」とすがすがしい表情で語った。
営業時間は午前10時~午後2時50分。火曜、水曜定休で11月は土日に休業する場合がある。11月22、29日は水曜だが営業する予定。11月には平日のみ、現代風に復活させた冬季限定メニュー「いも粥」の提供も予定している。問い合わせは孫兵衛=電話0770(27)1653。
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