北陸新幹線が福井県内に延伸開業した今年3月。五木ひろしさん(76)=美浜町出身=は、同月リリースした「こしの都」で「越前福井は歴史が香る いにしえに会いにゆく 路(みち)がひとつになりました」と歌った。古里が刻んだ歴史と新時代への思いを込めた曲だ。
「北陸新幹線が県内に開通する100年に一度の好機。この曲で福井を盛り上げていきたい」。前月、県庁での「こしの都」完成報告で報道陣に語った。新幹線が通った年は、上京してレコード会社と初めて契約を結んでから60年の節目でもあり、「自分が売れない時も古里は応援してくれた。これからは恩返しの時になる」。少し、声が震えた。
歌手を夢見て美浜で過ごした少年時代。念願のデビューを飾った時、友人ら地元の人たちがレコードを買ってくれた。ヒット作に恵まれず、芸名を3度も変えた。名を上げた全日本歌謡選手権出場には、応援してくれていた福井のテレビ局ディレクターの後押しがあった。苦しい生活の中でも支え続けてくれた母、きょうだいたち―。これまでのさまざまな情景がよぎった。
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「時代の流れもあって歌謡曲、演歌は下火になっている。こんな時だからこそ、福井に便乗するわけではないが、この歌と同時に歌謡曲、演歌を盛り上げていきたい」。「こしの都」に込めた、もう一つの思い。
作曲した五木さんは編曲者に「思いっきり楽器を使ってほしい。思うがままにしてほしい」と伝えた。ミュージシャン37人が集まり、スタジオに入りきらないほど。「お金に糸目はつけない。やり残したことはないという気持ちでレコーディングに臨んだ」という熱の入れようだった。
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「こしの都」のお披露目会が開かれた、3月の越前市文化センター。喜寿を前にしても、圧倒的な声量と確かな歌唱力。名実ともに歌謡界でトップに立つ五木さんの歌声に、詰めかけた千人の観客が酔いしれた。
このステージで故郷福井にちなんだ「ふるさと」「越前有情」「萩の花郷(さと)」をはじめ「よこはま・たそがれ」「夜明けのブルース」「山河」などヒット曲の数々をほとんど休憩を挟まず歌い切った。
公演中、観客に向かって語り始めた。「『五木ひろし』になるまで6年かかった。試練の道。でもあの時代がなかったら、今の僕はありません」(前田佳寿人)
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NHK紅白歌合戦の連続出場50回は歴代1位を誇る、歌謡界のトップスター五木ひろしさんは今年、歌手生活60年を迎えた。