文化庁は6月21日、地域の文化財を組み合わせて観光振興につなげる「日本遺産」の本年度の認定内容の変更を発表した。福井県関係では、「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落~」の認定自治体として美浜町が追加された。県内の「北前船寄港地・船主集落」の認定自治体は5市町目。
日本遺産は、文化財を観光資源として積極的に活用するため、15年度に始まった認定制度で全国に104件ある。「20年度までに100件程度」としていた目標に達したため、翌21年度からは新たに認定はしておらず、認定内容の変更のみ行っている。
「北前船―」は、北前船が行き来した日本海、瀬戸内海沿岸の寄港地に残る商家や船主の屋敷をはじめとする幅広い文化財群。敦賀市、南越前町を含む7道県11市町が申請し、17年度に認定された。18年度には坂井、小浜両市が追加された。
美浜町では早瀬や久々子などが江戸時代から明治時代にかけて北前船交易の拠点として繁栄し、関連文化財も多く、追加認定を目指していた。今回、「日吉神社曳山・神輿(みこし)」や「丹生金毘羅神社絵馬群」など17件が構成文化財となった。新潟県村上市と岡山市の文化財も新たに対象となり、認定自治体は52市町になった。このほか、敦賀市の構成文化財も、西福寺の国指定重要文化財「御影堂」など2件が追加認定された。
福井県関係の日本遺産は「北前船―」のほか▽「海と都をつなぐ若狭の往来文化遺産群~御食国若狭と鯖街道~」(小浜市、若狭町)▽「きっと恋する六古窯~日本生まれ日本育ちのやきもの産地~」(越前町)▽「400年の歴史の扉を開ける旅~石から読み解く中世・近世のまちづくり 越前・福井~」(福井、勝山両市)▽「海を越えた鉄道~世界へつながる 鉄路のキセキ~」(南越前町、敦賀市)―が認定されている。
交易拠点繁栄、港町区割り今も
日本遺産の「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落~」の認定自治体に21日、美浜町が追加された。同町早瀬や久々子などは江戸から明治時代に北前船交易拠点として栄えたほか、早瀬には、荷物を運びやすくするために海に向かって真っすぐ道が延びる港町の区割りや船主の子孫の家が今も残る。町は追加認定をまちづくりや観光振興、地域活性化に生かす考えだ。
追加認定に向け、町は2022年度に構成文化財調査を開始。同年8月には有識者会議も設立した。翌23年度も、PRチラシの製作や町歴史文化館での企画展開催、道の駅「若狭美浜はまびより」などでのPR動画の上映で機運を醸成してきた。今年2月末に文化庁に追加認定を申請した。
構成文化財となった17件の一つ、「日吉神社曳山・神輿(みこし)」は建造時の記録などから北前船主らの寄進で造られたと分かる。曳山は早瀬区に伝わる町指定無形民俗文化財「子供歌舞伎」、みこしも早瀬の伝統行事「水無月(みなづき)祭礼」で現在も使われている。
「丹生金毘羅神社絵馬群」は船絵馬4点からなり、うち1点は県内最古級といわれている。海運業者は船絵馬を神社に奉納して航海の安全を祈願していた。船に掲げられたのぼり旗や海上の船からの目印となっていた早瀬区の常夜灯なども構成文化財となった。
町出身の歌手、五木ひろしさんは北前船をテーマにした曲をリリースしており、一般社団法人「北前船交流拡大機構」から「北前船大使第1号」に委嘱されている。町は文化財保護の取り組みを継続するほか、認定記念イベントも計画している。21日は町役場に追加認定を記念した横断幕を掲示した。
戸嶋町長は28、29日に北海道釧路市で開かれる「第34回北前船寄港地フォーラム」に出席し、認定証を受け取る予定。追加認定を受け「先人の心意気と活躍を誇りに思う。町制70周年を迎えた年に認定された喜びを町民の皆さまと分かち合いたい。史実を生かしてまちづくりに取り組んでいく」とコメントした。
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