厚生労働省が10日発表した本年度の「現代の名工」に、福井県内からこんぶ加工工の高橋衛さん(72)、刃物製造工の加茂詞朗さん(65)、電気配線工事作業員の前田宏枝さん(43)が選ばれた。県内の「現代の名工」は、計85人となった。それぞれの分野で第一人者と認められた3人の足跡と卓越した技能を紹介する。
伝統を守る薄さ0・01ミリ
こんぶ加工工 高橋 衛さん(72) 敦賀市
敦賀市川崎町の昆布店の2代目店主。中学卒業後、父に弟子入りし、手すき昆布職人の道を歩んできた。自分の手に合うように加工した包丁を使い、リズム良く削り出す。薄さ0・01ミリのおぼろ昆布に、57年間培ってきた技が凝縮される。
片方の膝を立てて座り、膝で包丁を持った腕を押して削る。昆布をすく時は無心という。「温暖化の影響か、近年は昆布が厚くなり、包丁のかかりが良くない」と話すが、長年の経験で敦賀伝統の品質を守っている。
自らの下で修業する若手職人にも、一人一人の手に合った包丁を渡している。「使いやすい包丁で、弟子にもいい昆布を削ってもらいたい」と思いを語る。
国内外の実演会にも多く呼ばれる。昨年10月にパリで披露した時は現地の人から驚きの声が上がったという。「職人の先頭に立ち、体の続く限り伝統の技を守りたい」と力を込めた。
そば切り包丁 機能抜群
刃物製造工 加茂 詞朗さん(65) 越前市
25歳の時、実家の越前打刃物製造「加茂藤刃物」で職人の道に入った。研ぎは通常、研ぎ屋に任せることが多いが、父の助言で若い頃から取り組んだ。精進したかいがあり、鍛造から研ぎまで全工程をこなせる数少ない職人の一人となった。
40年間、「お客さまにいいものを作る」という一心で刃物作りに打ち込んできた。代表する商品の一つがそば切り包丁。各地にそば打ち体験施設ができるなど、そば打ちが一般に広がったことを受け、20年ほど前から本格的に作り始めた。今ではその機能性やデザイン性の高さが、そば打ち名人を目指す人たちに浸透している。
海外の市場開拓にも積極的に関わっている。ドイツで開かれる見本市に何度も赴き、自身の商品をはじめ産地の製品を出展しPRしてきた。
受賞の知らせに「ありがたい。若い子たちに技術をきっちり継承していきたい」と力を込めた。
女性活躍向け先頭走る
電気配線工事作業員 前田 宏枝さん(43) 大野市
父が社長を務める前田電気に2003年に入社。創業50周年を迎えた昨年、父から社長業を引き継いだ。県電気工事工業組合の女性部を立ち上げるなど、業界の女性雇用促進や男女問わず働きやすい職場環境の整備に力を尽くす。
幼い頃に将来の夢を聞かれ、ケーキ屋さんになりたいと答えたら、両親から「電気屋さんになるんだろう」。そう言われて育った。時計やラジオを分解するのが大好きだった。
高校3年時に第2種電気工事士の国家試験に合格した。大学では建築学を学ぶなど、家業を継ぐために幅広い知識や技術を貪欲に吸収してきた。
16年の電気工事技能競技全国大会では、新設された女性の部で最優秀賞に輝いた。「性別に関係なく、できないことはできるメンバーで互いに補えばよい」。業界の女性活躍の旗振り役となるべく、日々、業務にまい進する。
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