高浜町で味わう夏の美食
夏のコース料理一例・しゃぶしゃぶとマリネ
敦賀・若狭エリア魅力発信ライターの山田です。敦賀・若狭エリアの夏といえば、やはり海水浴。とくに関西圏を中心に、他県から多くのお客様が訪れています。
各市町では恒例の花火大会もあり、お祭りなども開催されて、夏の風情があちらこちらで感じられます。
宿のすぐ近くに若狭和田ビーチが広がる
今回の取材は、実に意外性のある題材となりました。なんと、夏にフグのコース料理を提供する宿が高浜町にあるのです。フグといえば、イメージは冬の食材。鍋を思い浮かべる人も多いでしょう。ところが、今回ご紹介する「五作荘」は、1年を通じて美味しいフグ料理を味わうことはできます。敦賀・若狭エリアの秋冬は、カニとフグどちらも名物料理として登場。宿や食事処で提供されますが、夏のフグコースは他に類をみないのです。
高浜町は、福井県の最西端に位置しています。自然が豊かで8つの海水浴場があり、「若狭富士」と呼ばれる青葉山が町の風景を特徴づけています。マリン・アクティビティが充実している一方、寺社・仏閣など歴史や文化にも触れることができる地域です。
漁業も盛んで、先述のとおり秋冬はフグ・カニで多くのグルメ客をもてなします。
そのなかでも五作荘はふぐ料理に特化し、フグ界のパイオニアと呼んでも過言でない偉業を成し遂げた宿です。その陰には宿名にもなっている今井五作氏の不屈の物語がありました。
ふぐ料理五作荘の創業は昭和55年
五作氏が誕生したのは、明治26年。酒屋に生まれましたが、酒に溺れた父親が店を潰してしまいました。その姿を見ていたためか、五作氏は仕事に熱心な人物へと成長しました。漁業、なまこや練り物の製造販売、牡蠣の養殖などを行い、さらに食堂経営や酪農も行っていたそうです。
当時、すでに高浜町では天然のトラフグ漁が行われていましたが、その美味しいシーズンは「秋の彼岸から春の彼岸まで」とされていました。4月から5月にかけて定置網や刺網にかかるフグは網を食いちぎる厄介者とされ、捨てられる存在でした。
しかし、五作氏はこの課題に注目し、その解決策を探りました。そして導き出した答えが「畜養」です。 畜養とは、自然界で捕らえたものを生け簀等で一時的に飼育することです。五作氏はこの技術の会得によって、1年を通して美味しいトラフグの提供を可能としました。取り組みを始めたのは60歳を超えてからで、最初の数年は失敗の連続。他の事業を辞めてトラフグの畜養に専念し、昭和31年ついに天然トラフグの畜養に成功したのです。開始から実に4年の歳月が流れていました。
日本の文化が随所に
その数年後、昭和天皇皇后が若狭行幸において五作氏が代表を務める会社の生簀を見学しました。この時は、天皇皇后にフグを食べていただくことは叶いませんでした。その理由がフグの毒にあると推理した五作氏は、「フグの毒を消す」という挑戦を決意します。
五作氏は「へしこ」の製法にヒントを得て、フグの卵巣を米ぬかに漬け、試行錯誤を何年も繰り返しながら、ようやく無毒化を果たします。辿り着いた手法は、2年間塩漬けにした後、さらに酒粕に1年漬け込むこと。この手順を踏むことで、新たなフグの料理が完成したのでした。
庭園を眺めつつ食事処へと向かう
宿が誕生したのは、五作氏の没後。「美味しい若狭のフグを世に広める」という想いを五作氏の子や孫が受け継ぎ、昭和55年に料理旅館「五作荘」が創業しました。
年間を通してフグ料理の提供が可能なのは、五作氏が培った畜養技術の賜物です。そして、卵巣の粕漬けは現在もコース料理で味わうことができます。
特に卵巣の粕漬けは、誕生後も味の探究が進められてきました。相性のよい酒粕を長年追い求め、平成28年にようやく運命的な出会いを果たします。その相手が福井の誇る銘酒・加藤吉平商店「梵」の純米大吟醸の酒粕でした。
この逸品は2025年に「千夜の軌跡 福珠」と名付けられ、五作氏や宿が辿った不屈の物語の結実として、ゲストの舌を楽しませてくれるのです。
食事処の一例
五作荘の食事処は、富山井波の職人技が随所に刻まれた、豪華にして落ち着きのある空間。昭和天皇が行幸の思い出を詠まれたという句も、掛け軸として飾られています。伝統美溢れる素晴らしい空間で、いよいよ夏のフグコースをいただきましょう。
手づくりの食前酒で口を潤し、気分を高めてコースはスタート。
なんと前菜が、福珠の三種盛です。その内容は、福珠そのもの、赤紫蘇の素麵と合わせたもの、クリーム―チーズと和えて最中風にしたもの。
まずは福珠をいただきます。なんと表現すべきでしょうか。フグの卵巣は稀少性が高く、やはり味も唯一無二。かろうじて表現するならば、想像より強くない塩味、からすみのような魚卵のコク、全体はねっとりとしながらもわずかに残るプチりとした食感といった特徴があります。そしてふわっと芳醇な酒の味と香りが余韻を作ります。
赤紫蘇の素麺は、高浜町の小学生が地域の未来を考える学習の一環で考案したもの。「しそーめん」という商品名で販売もされており、それを福珠と組み合わせています。地域の絆が感じられ、また夏ぴったりの料理です。
クリームチーズと福珠の最中の組合せも、相性は抜群。これはぜひ白ワインとあわせてみたい一品でした。
福珠は、お酒との相性が良さそう。さまざまな可能性を秘めているような気がします。そして、やはり日本酒との組み合わせは外せないでしょう。特に「梵」とのペアリングは、想像しただけでも期待が高まります。今回は食事の取材ということもあって、日本酒は断念してしまいました。次回は、間違いなく宿泊して楽しみたいと思います。
向かって左から「福珠」「紫蘇素麺」「クリームチーズ和え」
続いて、たたきと皮の2種盛。たたきは少し肉厚で、しっかりした歯応えと旨味が味わえます。皮は「鉄皮(外側の皮)」と「とおとうみ(内側の皮)」の両方が用意され、食べ比べができます。とおとうみは肉厚でコラーゲンをたっぷり含み、ぷりぷりとした柔らかい食感。大きい個体からしか取れないらしく、稀少性が高い逸品です。これらは、地元の醤油と酢、紀州の柚を合わせた自家製ポン酢でいただきます。辛みを効かせた紅葉おろしも、高評価まちがいなし。
左)たたき・鉄皮・とおとうみ 右手前)焼ふぐ
しゃぶしゃぶは、鍋に火をつけて最初にフグのアラを投入。出汁が滲み出た頃合いに、そのままでも刺身として食べられる薄造りを軽くくぐらせます。野菜も地産地消にこだわっているとあって、鮮度のよさが感じられました。
ここで、ヒレ酒をいただきます。こんがり焼けたフグヒレはかなりの大きさ。じっくり2時間30分ほどかけて焼くとのことで、香ばしさ・出汁の素晴らしさに感動しました。
唐揚げは、レモンを絞って。パリッとした衣とフグ身の弾力、旨味が楽しめますね。こちらはビールとあわせたら、まさに気分は夏祭り。海とビールとフグ唐と。高浜町のキャッチフレーズになりそうな情景が思い浮かびます。
マリネは、フグ身の燻製を使ったもので、これも白ワインに合うと直感。燻製の香りと酸味が食欲を刺激します。
左)白子・身が入った茶碗蒸し 右)ヒレ酒
茶碗蒸しは、玉子の味が濃厚。さらにフグ白子と身が入り、自分史上、もっとも贅沢な茶碗蒸しとの遭遇となりました。
締めはフグ飯。フグの出汁と身で炊いたご飯は、上品な旨味が特徴。それまでたらふく食べていながら、食欲はまったく衰えず完食です。冬の雑炊もよいのですが、フグ飯も嬉しい存在です。
この日のデザートは、コーヒーゼリーに柚子ジャムを添えたもの。手作りの柚子ジャムがとても美味しく、夏の記憶としていつまでも残りそうです。

奥)フグ唐揚げ 左)香の物 右)ふぐ飯
夏のフグコース。暑さで食欲減退の時期なのに、すべてが美味しく食欲は全開。昼・夜とコース内容は変わらないとのことですが、宿泊してじっくり料理やお酒を楽しむこともおススメです。
宿泊は1日限定3組まで。宿から徒歩圏内に美しい若狭和田ビーチがあり、気温が比較的落ち着く夕方や朝の散歩も、きっと記憶に残る旅となるでしょう。もちろん、夏以外でも季節にあった美味しいふぐ料理が待っています。
客室の一例
趣のある庭園
※料理内容・画像は取材日当日のものです。
当日の仕入れ状況等により、変更の可能性があります。
※夏のコース料理の提供は、9月末までの予定です。
〒919-2201 福井県大飯郡高浜町和田131-16-1
TEL 0770-72-0164
FAX 0770-72-2036
ホームページ
https://fugu-gosaku.com/
福井県庁地域おこし協力隊
敦賀・若狭エリア魅力発信ライター 山田慎一
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