編さん委員会の田辺代表(左)と委員の岩本克己さん=22日、福井新聞敦賀支社

 福井梅発祥の地とされる福井県若狭町田井地区の伊良積区の歴史をつづった「西田梅の発祥地―伊良積の歴史―」を、区民有志でつくる編さん委員会が編集し、同区が発刊した。明治~昭和初期に舟で梅を運んだときの作業歌など梅生産だけでなく、多由比(たゆひ)神社の例祭など集落の行事や暮らしぶりを後世に伝えようと、区民から聞き取りや写真の提供を受けて6年がかりでまとめた。

 伊良積集落の梅栽培は江戸期天保年間(1830~43年)に始まったとされている。当初は道路事情が悪く収穫した梅は早朝に小舟に載せ水月湖、浦見川、久々子湖まで運び、後は陸路で敦賀に運搬した。湖岸にはかやぶきの舟小屋が観光用に保存されている。

 本では「丹後街道を荷車を押して敦賀に至り、荷を下ろし、夕刻遅く湖上の暗夜を帰宅する一日がけの仕事でした」と先人の苦労を記述。「朝の二時から ヨオーヨエー」など「梅運び歌」の歌詞を、観光梅園などで歌い継いできたお年寄りらの写真(1983年撮影)も添えて収録した。

 多由比神社の春の例祭神事は、田井地区の6集落が当番制で担当し、このうち伊良積は神社に向かう際の「村立ち」の祭礼舟で湖を渡っている。吹き流しなどで飾られた祭礼舟や、中世芸能「エッサカエット」を奉納する様子などを写真とともに紹介した。

 町指定文化財の阿弥陀如来立像など旧地蔵堂にあった仏像や、地蔵祭の数珠繰りなど集落の年中行事のほか、先の大戦で戦死した若者の入隊前の日記も抜粋。農業や青年団活動などを克明につづり、当時の暮らしぶりを伝えている。

 編さん委員会代表の田辺常博さんは「編さん作業が一時中断したときもあったが、福井梅の発祥の地としての集落の歴史を後世に残したかった。区民の思いが詰まっている」と話している。

 A4判70ページ。町内の公民館、小中学校などに寄贈。送料・税込み1500円で希望者に渡している。問い合わせは田辺さん=電話090(2090)5418。

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