福井県小浜市は7月11日、宮川地区で産出される赤紫色の鉱石を切り出し作られたすずり「鳳足石硯(ほうそくせきすずり)」を7日付で市指定文化財に追加したと発表した。水戸藩主・水戸光圀により命名され、皇族や文人らに重宝されてきた歴史があるすずり。同地区の誇りとしてPRに奮闘してきた地元では「文化財として貴重なものと認められうれしい」と喜びの声が上がった。
指定された「鳳足石硯」は、戦国~江戸時代の2点。市では当時の文化や加工技術の高さを伝える貴重な資料としている。
鳳足石硯は、江戸初期に良質なすずりとして上方に広く知られ、小浜藩主・酒井忠勝が後水尾(ごみずのお)天皇らに献上したとされる。水戸光圀が名付けたことから「鳳足石硯」と呼ぶようになった。皇族をはじめ貴人、文人に重宝された歴史があり、地域特性のある美術工芸品として評価された。
県立若狭歴史博物館に寄託され宮川地区の龍泉寺が所有する「伝武田信高所用紫石硯(しせきけん)」は縦30センチ、横20・5センチ、厚さ2・5センチ。若狭守護武田家の一族、武田信高が1534(天文3)年に寄進したとされる。
若狭神宮寺所蔵の「酒井忠直寄進紫石硯」は、1666(寛文6)年に2代目小浜藩主の酒井忠直が寄進した品で、縦34センチ、横28・5センチ、厚さ4センチ。忠直が全国の寺社に奉納・寄進したほかの鳳足石硯と同様に使われた形跡がなく、市文化観光課の担当者は「宝物として丁重に扱われたことがうかがえる」と説明した。
今回の指定で市文化財は116件となり、国68件、県83件と合わせ市内の文化財は267件となった。
調査や発信活動が結実 地区住民有志「若い人も知って」
宮川地区住民ら有志は「宮川産鳳足石研究会」を立ち上げ数年前から勉強会や展示会を行い、石やすずりの歴史を地区の誇りとして後世に残そうと奮闘してきた。
すずりの材料となる鳳足石は鉄分を多く含む赤紫色の鉱石。1635年、小浜藩が石の勝手な採掘を禁じ、天皇家や大名への贈答用のすずり石として重宝した。
すずりの生産自体は10年以上前に途絶えたが、研究会では地域の宝として発信していく方法を模索。昨年には酒井忠直が鳳足石硯を奉納・寄進した全国39カ所の寺社に文書を送って追跡調査を実施した。回答を得た寺社には視察に赴き、約半数が現存していることが明らかになった。小浜古文書の会などの協力を得て、学んだ歴史を年表にまとめ、宮川ふるさと館(旧宮川小)で展示も行った。
文化財指定を聞き、同研究会会長と事務局長は「驚きとうれしさが半々。ありがたい」とかみしめた。秋には鳳足石についての講演会などを計画しているという。「これをきっかけに、若い人にも広く知ってもらえたら」と期待を込めた。
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