福井県若狭町熊川出身の沼田麝香(じゃこう)(1544~1618年)と、夫の細川藤孝(幽斎)の肖像画、麝香がしたためたと伝わる「扇面歌文(せんめんかぶん)」の複製品3点がこのほど、同町熊川の資料館の展示に加わった。麝香の肖像画は、細川家の子孫が約30年前に現物を熊川に持ってきたことがあるゆかりの逸品。町の担当者は、400年以上続く歴史的な縁を踏まえ「展示は念願の一つだった。熊川が誇る重要な歴史を伝えていきたい」としている。
麝香は、足利将軍直属の家臣で熊川城主だった沼田光兼の娘。側室を持たなかった藤孝の生涯一人の妻として愛されたと伝わる。藤孝は旧熊本藩主細川家の初代。同家は元首相の細川護煕さんが第18代当主を務めるなど現在も続く名家だ。
熊川を訪れたのは護煕さんの父で17代当主、護貞さん(1912~2005)。同町若狭三方縄文博物館の永江寿夫館長によると、護貞さんは幽斎研究の第一人者で1969、93年に訪れたという。2度目の来訪では、沼田氏の供養塔がある得法寺(熊川)に立ち寄った後、旧上中町中央公民館の大ホールで講演。麝香の掛け軸を住民に披露し、熊川の歴史深さと大切さを訴えた。永江館長は「複製品の制作は当時からの夢」と振り返る。
約30年越しの悲願を果たそうと、3点をはじめ細川家伝来の美術品や歴史資料約9万2千点を所蔵する美術館「永青文庫」(東京都文京区)に2021年度に依頼。写真データの提供を受け、2月下旬に完成品が届いた。同宿から河内川ダム周辺までの整備事業の一つとし、魅力向上を図る。
肖像画の「細川幽斎(藤孝)像」、「細川幽斎夫人像」はともに江戸時代中期の成立で、縦約1メートル、横約0・5メートル。絹に着色する「絹本(けんぽん)着色」で色鮮やかに仕上げた。扇面歌文は桃山~江戸時代初期と伝わり、紙本着色の縦約1メートル、横約0・6メートル。幽斎が賞した「徒然草」の一文などをしたため、人の世の無常を説いているという。
3月15日、若狭鯖街道熊川宿資料館宿場館で初めてお披露目された。若狭熊川宿まちづくり特別委員会の宮本哲男会長は「熊川の本物の魅力を発信するのに大きな力となる」と喜んだ。
宿場館の入館料は高校生以上200円。開館は午前9時~午後5時。原本の問い合わせは永青文庫=電話03(3941)0850。
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