• 古民家を舞台に公開制作に臨んだテオさん(左)とマリーヌさん=8月、若狭町の熊川宿
  • 古民家の土間を使ったインスタレーション
古民家を舞台に公開制作に臨んだテオさん(左)とマリーヌさん=8月、若狭町の熊川宿

 福井県若狭町の熊川宿若狭美術館と近くの古民家で開かれている「第3回熊川宿若狭芸術祭2025 臨場VOL.3 Ⅱ」。海外から初参加となるフランスのアーティストを含む国内外の美術作家らが8月下旬、熊川宿に滞在して公開制作した作品が並ぶ。「文化財と地域の生活が融合した歴史的な景色が、私たちの想像力を刺激した」。土地の空気感、地域住民らとのコミュニケーションからインスピレーションを膨らませたインスタレーション作品を展開している。

 フランスから参加したのは、建築家でアーティストのテオ・ムザールさんと、デザイナーのマリーヌ・ロワイエさん。地域住民と交流しながら、その地にふさわしい持続可能な公共空間やサービスを提案して実現するユニットとして活躍する。

 2人の公開制作の舞台は、明治時代に建てられ30年以上空き家となっていた古民家。「引っ越して住む」をコンセプトに10日間にわたって作品制作に臨んだ。マリーヌさんは、熊川宿の通りを見て歩き、住民が軒先に誰でも座れるベンチや、花壇を置いている光景が新鮮に映った。「中と外の間にある空間をみんな生き生きと使っているのが面白かった」。古民家の土間部分や軒先の空間を使ったインスタレーション作品を思い立った。

 並べるのは地域住民から譲り受けたケヤキ材を使ったシンプルな設計の家具。椅子は背もたれに取り付けられた桜の太い枝が印象的で、テーブルは天板の一部をひょうたん形にくり抜き、別の木材をはめ込んだデザインがアクセントになっている。テオさんは「美しく作ろうとか価値を高くしようとかが大事ではなく、プロセス自体に価値がある。それを形にしていった」と語る。

 最終日には、近隣住民を招き、フランスの風習である引っ越し祝いのパーティーを開いた。住民らが「新築祝い」として持ち寄った茶わんやコップ、ワインや日本酒の空き瓶なども、インスタレーションの構成要素に加えた。テオさんは「目に見えたものだけを感じるのではなく、想像の中でプロセスを感じてもらえたらうれしい」と話していた。

 臨場Ⅱは10月6日まで(火~木曜休館)。

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