• 「歓び」に描かれている魚と漁師
  • 渡辺弘子さん(中央)の作品を集めた布絵ミュージアム=美浜町早瀬
  • 大島紬などを使った「イワシの干物」
  • 渋柿で染めた古い酒袋を使った「カレイの干物」
  • 1991年に雑誌クロワッサン主催「黄金の針展」で入賞した作品「歓び」
  • 「歓び」に描かれている漁師
  • 紺色の布を「裂織り」して川を表現した「日向水中綱引き」
  • 「歓び」に描かれている魚
「歓び」に描かれている魚と漁師

 福井県美浜町早瀬の布絵作家、渡辺弘子さんの自宅離れを活用した「渡辺弘子布絵ミュージアム」がこのほど開館した。今はなき早瀬の風景や若狭の海と暮らす人々の営みを題材に、住民の愛着ある古着の布などで作った布絵を展示。郷土愛が伝わるほか、約30年間独学で磨いた技と表現力が感じられる。完全予約制で、運営する若狭美浜観光協会の担当者は「ぬくもりあふれる作品を見てほしい」と話している。

 渡辺さんは漁師町早瀬に生まれ、地元に嫁いだ。1989年ごろから布絵制作を始め、91年に雑誌クロワッサン主催「黄金の針展」で入賞、2002年には県文化新興事業団の「野の花文化賞」を得るなど、高い評価を受けている。

 これまで制作された布絵は100点以上あるが、個展以外ではお目にかかれなかったという。優れた布絵を多くの人に見てもらおうと、同観光協会がミュージアムを企画。昨夏クラウドファンディングや寄付で資金を募り、発光ダイオード(LED)照明などを設置し5月10日にオープンした。

 計12畳の2部屋にぬくもりある37点が並ぶ。黄金の針展入賞の「歓(よろこ)び」は、網の中で腹を見せて跳ねる魚や勇壮な大敷網(おおしきあみ)漁の様子をいきいきと描いている。昭和30年代半ばを描いた「早瀬川の春」は、石垣の護岸の上に立ち並ぶ家から川を眺める男性や釣り糸を垂らす旅館の女将(おかみ)を緻密に表現した。

 子供歌舞伎の演目「三番叟(さんばそう)」の衣装部分は男の子のお宮参り用の産着を使い、24人の女性を描いた「紺絣(こんがすり)さまざま」は藍染めの絣を着物部分にあてた。大島紬を使い串で乾かす様子を表現した「イワシの干物」や渋柿で染めた古い酒袋の「カレイの干物」など、遊び心あふれる立体作品もある。展示は定期的に入れ替え、季節にあった作品を楽しんでもらう予定だ。

 中には100年以上前の布も含まれているという。渡辺さんは「古布を通じてつながってきた人の思いと郷土愛がこもっている。それを感じてくれたらうれしい」と話していた。

 ミュージアムは午前9時~午後4時半。土日祝日休館。入場料は大人300円、中学生以下無料。問い合わせは若狭美浜観光協会=電話0770(32)0222。

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