自然を活用した浅場の再生工法の成果を調査した宮本研究員(右)ら。トレーの手前が再生した浅場の土砂=16日、美浜町の久々子湖

 シジミの生息地となる水深の浅い砂場を自然の力で広げる全国初の自然再生事業が久々子湖(福井県三方郡美浜町)で進んでいる。湖の1カ所に大量の土砂を入れ、後は北西の季節風が平らにするもの。16日、県里山里海湖(うみ)研究所の研究員らが成果を調査したところ、生き物が4倍近くに増えていた。研究員は「稚貝などの放流だけでなく、場を再生する取り組みで生き物を増やしたい」と意気込んでいる。

 三方五湖は1975年以降進められたコンクリート護岸化により、シジミやゴカイの仲間などの生息地となる浅い砂場(浅場)が激減。河川の上流には砂防ダムが築かれ、湖に流入する土砂が減り、新たな浅場も造成されにくくなったという。40年ほど前は45トンあったシジミの漁獲量は、現在1~3トン前後で推移している。

 県や美浜、若狭両町、漁協などでつくる三方五湖自然再生協議会が再生事業を開始。2020、21年度に久々子湖南岸に土砂を入れた後、北西の季節風がならし浅場を造成した。永続的に維持されるよう、三方五湖に流入する河川でしゅんせつした土砂は湖に入れるルールも定めている。

 この日は同研究所の宮本研究員をはじめ、共同研究する国立環境研究所(茨城県)と東邦大東京湾生態系研究センター(千葉県)の研究員も参加。元々なかった湖岸に浅場が長さ約80メートル、面積にして約700平方メートル広がっていた。150メートルの間で等間隔に20センチ四方の枠を湖底に入れ、枠内の土砂を調査。再生していない土は貧酸素化し黒っぽくシジミは少なかったが、新たな浅場は明るく黄色い土砂で、大量のシジミが含まれていた。

 この自然を生かした工法は、宮本研究員が「地元に伝わる新田開発の手法をヒントにしたもの」。国立環境研究所と東邦大の研究員は「全国でも見たことがない」とし、「稚魚や稚貝の放流など一過性の再生がほとんどで、場の再生は軽んじられる傾向にある。同様の取り組みが広がることを期待したい」と話した。

 宮本研究員らは今後、採取した土砂の生き物や水質を詳しく調べ、来年度論文執筆に入る。

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